一日一善と三膳

一日一善と三膳を通して世界とおれを幸せにする

鶏つくね棒が夫婦の危機を未然に防いでくれた話

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状況はこうだ

 

・39度の熱に3日間うなされ続けている生後11ヶ月の娘が家にいる
・家で仕事を休んでその娘の看病をしている嫁から平日のランチ時におれの携帯が鳴る
・電話に出ると嫁は泣いている。何を言っているかわからないほどに

 

この状況で最悪の事態を想像しない夫は世界に何人いるのだろうか?

 

おれは金曜日のランチにファミマで買った鶏つくね棒をアホみたいな顔をして食べている時にまさにこの状況に陥った。

 

口の中に残された鶏肉は味を失い、おれの頭の中の思考という思考を全て吸収したようだった。

 

「冷静に、冷静に」と自分に言い聞かせて、口の中にあった軟骨をコリっと確かめた。

 

嫁「食べたもの全部吐き出したの!」
おれ「うん」
嫁「それで私の服とか、ソファにまで全部かかったの。もうやだ、帰ってきて!」
おれ「それで娘は?息してるの?」
嫁「してるよ!」

 

おれはまたアホみたいな顔をして、残っていた真ん中の鶏つくねを口に入れた。お腹が空いていたわけでもないし、味を確かめたかったわけでもない。自分の口から次に出てくるであろう言葉を鶏つくねで堰き止めたのだ。

 

嫁「帰ってきてよ」
おれ「もぐもぐ」

 

嫁「もうこんなのやだよ」
おれ「もぐもぐ」

 

嫁「もういい!お母さんにお願いするから!」
おれ「もぐもぐ」

 

それからほどなくして電話が切れた。

色々言いたいこともあったのだけれど、おれは最後の鶏つくねを口に入れて、スマホをポッケにしまった。

 

そしておれは3日後の今日、こうしてこれを書いているわけだけれども、もう一つ鶏つくねが欲しいと感じている。思い出しただけでも腹がたつ。書いてはいけないことまで書いてしまいそうになるおれを鎮めてくれるのは、もうこの世界に鶏つくねしかいないのだ。