ごめんね、スクランブルエッグになっちゃった
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地下鉄の車内広告の中にいる山Pがおれを見ている。なんてシュッとしているのだろうか。おれは山Pとは同い年だ。年が同じと言うこと以外に共通点が見つけられそうにない。そう言えば昨日も暗いことを書いたんだった。今日は明るいことを書こうと思う。おれが今よりはまだ山Pとの共通点が多かっただろう、10年以上前の話だ。
目が覚めると見覚えの無い壁紙に囲まれていた。白と薄いブルーのストライプの壁紙は平和の象徴のように思えた。おれはフローリングで眠っていたようで、机の下に突っ込まれていたCOACHのバッグが見えた。だけどおれにはそのCOACHのバッグを持っている知り合いはいなかった。
起き上がろうとするのだけれど、体はだるいし、誰の部屋かもわからない場所ですぐに動く気にはなれず、横になったままでいた。
誰かの足音がした。おれはタオルケットで口元を隠した。
「おはよう。朝ご飯作ってるから起きて」それは沙織さんの声だった。
「おはようございます」そこで前日に道頓堀というお好み焼き屋さんで沙織さんと由紀さんと和也と一緒に夜中の3時までいたことを思い出した。和也がいちごサワーを頼んだところでおれの記憶は無くなっていた。
「目玉焼きと卵焼きどっちがいい?」
「目玉焼き」
「半熟にしてあげる。そこに着替え置いてるから」
「ありがとうございます」
ベッドの上にあった男もののグレイのTシャツと紺色の短パンに着替えて部屋を出て驚いた。自分がいた部屋は2階にあって、扉を開けると眼下には広いリビングがあって、その真ん中に大きな椅子があり、そこに知らないおじさんが座っていた。弧を描いた階段を降りているとそのおじさんが「おはよう」とおれの方を見ながら笑顔で言ってきた。「おはようございます」と返した。「座りなよ」と言っておじさんは大きな椅子の斜め向かいにあるソファに目を向けた。そしておれがソファに座ると「いつも沙織と遊んでくれてありがとう」とおれの目を見ながらおじさんが言った。「いえ、遊んでもらってるのは僕の方です」と間抜けな返事をした。おじさんはそれから新聞に目を落とした。
「ごめんね、スクランブルになっちゃった」と沙織さんが言いながらリビングのおれの方に目を向けた。
明日へ続く