一日一善と三膳

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ニュース速報「ざんぎいっちょー」【札幌奇譚その4】

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兄が札幌を離れた後も、おれは3日間札幌に残り、父の病室を訪ねた。

 

そして、昼ごはんは毎日病院近くの回転寿司に行った。嫁にそのことを伝えると、せっかく行ってるんだから、味噌ラーメンとかそういうのも食べてみれば良いのに、と言われた。わからなくもないが、でも、おれはどうもそういうのが苦手だ。

 

昔営業の仕事をしていて、出張に行った時も、ホテルから出るのが面倒で、だいたいいつもコンビニでおにぎりを買って食べていたくらいだ。今になって思うと、さすがにそれはやりすぎだったかもしれないと思う。

 

今回3日連続で回転寿司に行ったことはおれの中では、結構な進歩だった。もしかしたら毎回父が3,000円くれていたことも影響しているのかもしれないが。おれも30歳を過ぎて、一児の父親になったが、頂けるお小遣いは基本的に遠慮なく頂くスタンスはこれからも継続していきたいと思う。

 

 

おれも札幌を離れる日のことだった。午前10時に父の病室を訪ねた。父は眠っていた。タオルを濡らして干した後、病院の中を少しだけ歩いてみた。そして、誰もいない、待合のTVの前に座った。流れている番組を見るともなくぼんやり眺めていた。すると後ろから入院患者と思わしき松葉杖をついたおじさんがやってきて、おれの前に座り、リモコンを握りしめた。その光景もぼんやりと眺めていた。

 

病室に戻ろうと、椅子から立ち上がり肘掛けに手を掛けた、その時だった。

TVからピコンピコンという音がした。聞いたことのある音だと思ったら、すぐに画面上部に”ニュース速報”のテロップが出た。

 

なんだろうと思い、TV画面を見つめた次の瞬間に、おれの前に座っていたおじさんが、まさかのチャンネル変更。

 

いやいやいや!おっさん!どういうこと!?なに!?そういう病気で入院してんの?ニュース速報流れたらチャンネル変える病?は?あ?

ごめんなさい。不謹慎でした。言い過ぎました。

 

変わった先のチャンネルではニュース速報は流れていなかった。

おじさんに「チャンネル戻してください」と言えば良いだけだったのだろうけど、おれは怯んでしまった。なぜなら、相手はニュース速報が流れたらチャンネルを変えるおじさんなのだ。わかりあえる気がしなかった。

 

父の病室に戻り、TVをつけて見たものの、それらしいニュースは流れていなかったし、スマホを見てもそれらしいニュースはなかった。それでやっと、まあそんなものか、と思ったものの、なんだかもやもやした気持ちのまま、おれはまたいつものように回転寿司に向かった。

 

3日連続でも、寿司はいろんな種類があるので、飽きない。

だが、2日連続、おれはざんぎを食べることができていなかった。その回転寿司屋さんでは、オーダーを紙に書いて渡す方式が取られていた。おれは2日連続、ざんぎを一番上の欄に書いていたのだけれど、1日目も、2日目も結局おれの手元にざんぎが運ばれてくることはなかった。

 

2日目に店を出る時に、季節商品か、入荷した時のみの特別提供品かなのかなと疑ったくらいだ。鶏肉ですけどね。と思いながら。

 

そして訪れた3日目。正直、その日はざんぎが食べたい気分ではなかった。でも注文しないわけにはいかなかった。おれは工夫を凝らした。いつも一番上の欄に書いていたざんぎを、3段目に書くことにした。

 

ホタテ

ぶり

ざんぎ

あら汁

炙りさば

 

これはさすがに通っただろ、と確信した。

 

板前「へい、ホタテお待ち!」

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おれ「ありがとうございます」

 

板前「へい、ぶりお待ち!」

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おれ「ありがとうございます」

 

板前「へい、あら汁お待ち!」

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おれ「ありがとうございます」

 

板前「へい、炙りさばお待ち!」

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おれ「ありがとうございます」

 

まあまあ、そうだよね。揚げ物だから、そりゃ時間かかるよ。

おれはいつにも増して、時間をかけて寿司を咀嚼し、味わい、堪能した。が、ざんぎは来ない。

 

おれは次の注文をした。

 

ボタンエビ

いか山わさび

いくら

 

板前「へい、ボタンエビお待ち!」

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おれ「ありがとうございます」

 

板前「へい、いか山わさびお待ち!」

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おれ「ありがとうございます」

 

板前「へい、いくらお待ち!」

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おれ「ありがとうございます」

 

いやあ、寿司はおいしいなあ。お腹いっぱいだ。3日連続贅沢させて頂きました。

さて、帰ろう。

 

病室に戻ろうと、椅子から立ち上がり肘掛けに手を掛けた、その時だった。

 

板前「へい、ざんぎお待ち!!!」

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いやいや!もういらないよー。このタイミングではー。絶対いらないよー。でもお皿カウントされちゃうじゃーん。チャンネル変えたいよー。

 

おれ「あなごと白魚ください」

板前「ありがとうございまーす!あなご、白魚いっちょー」

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