ボーナスを嫁へ
Ads by Google
おれは今、お金を持っている。嫁の知らない口座にコツコツと貯めて20万円の貯蓄ができた。それにドトールのカードに5,000円、nanacoカードにも5,000円、PASMOにも5,000円のストックがある。いわゆる無敵状態に入っている。
先々週、ボーナスが支給された。娘が誕生して初めてのボーナスだ。これまではボーナスが出ると、おれは嫁に交渉して、その一部を貰っていた。が、しかし、今回はもういらない。おれはお金の管理が大いに苦手だ。だからこれ以上のお金を持たない方が良い。
そこで、おれは一つ、ある案を考えた。いつものようにボーナスの一部を貰えるように嫁に交渉し、そして、嫁から許しの出た金額をそのまま全て嫁にあげる。という案だ。我ながら良案だと思う。そしておれは実際にそれを実行した。賞与の明細を貰った日の夜に。
おれ「はい、これ賞与の明細。振込は明日らしいよ」
嫁「お疲れ様でした」
ここでおれは、コーヒーを入れるために、ソファーから立ち上がった。すぐに交渉に入らないと言うところから、すでにおれの交渉は開始されている。娘が生まれたばかりなのだ。そもそも1円も貰えないということだって大いに有り得る。まずはそれを回避しなければ。嫁に背中を向けたまま、ポットからマグカップにお湯を注ぐ。
嫁「金額確認した?」
おれ「うん」
おれは興味のない風を装い、砂糖の入ったびんに手をかける。
嫁「今期もお疲れ様でした」
おれ「もしかして今回もくれるの?」
できるだけ言葉に重みを持たせないように注意しながら、軽快な口調で問いかける。
嫁「うん。前回いくらだったっけ?」
おれ「いくらだったっけ?覚えてないや」
忘れるわけがない。3万円だ。
嫁「じゃあ、今回はキリがよくなるから、6万8千円ね」
なんと!6万8千円?!
なに?おれの作戦バレてるの?言われた金額全部あなたに渡そうとしている、おれのこの作戦、バレてるの?マグカップの中の黒い液体の水面と一緒に、おれの心も大層揺らいでしまった。
いやあ、折半にしようかな。と。
だめだ、だめだ。娘を産んでくれて、毎日お世話してくれてるんだ。お金には換算できないけれど、6万8千円でも全然足りないくらいだ。そんなことを考えていたら、妙な間ができてしまった。おれはマグカップを持ったまま嫁の方を振り返り言った。
おれ「ありがとう。じゃあ、それ全部あげるよ」
声は上ずっていたかもしれない。
嫁「どういうこと?」
おれ「6万8千円。好きに使いなよ。」
マグカップを持つ手は確実に小さく震えていた。
嫁「いや、毎日頑張ってくれてるんだから、いいよ」
おれ「いやいや、娘を産んでくれて、毎日お世話もしてくれてるから、感謝の気持ちです」
それ以上言わないでくれ、おれの心は揺れているんだぞ。
嫁「良いから、取っときなよ」
もうだめだった。もう耐えられなかった。おれはそれ以上反論する術も、精神力も持ち合わせていなかった。
おれ「わかった。ありがとう。有難く頂きます」
使わずにさ、嫁でも娘のためにでもストックしておけば良いんだよ。そんなの知ってるさ!おれだって。でもストックできないから言ってるのに!
その翌日嫁が封筒に現金を入れて来てくれた。
嫁「そこの引き出しに入れておくからね」
おれ「わかった」
あれから10日以上が経つが、おれは今日に至るまでその引き出しに近づくことができていない。
12月19日火曜日 晴れ。年の瀬の気配がして来た。
今朝の体重76.3kg
朝 ドトールBモーニング
昼 蒙古タンメン中本カップヌードル、鶏めしと半熟煮卵
夜 キムチチゲ鍋(温めている最中に撮影するという臨場感)
一日三膳。ごちそうさまでした。
(執筆時間31分)
スターを頂けたなら歌います。ブックマークを頂けたなら踊ります。読者になって頂けたなら脱ぎます。おれの自己紹介