一日一善と三膳

一日一善と三膳を通して世界とおれを幸せにする

青い肩紐と、山手線の踏切

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一昨日と昨日のつづき

 

ウッドデッキの縁に座っている沙織さんの隣に座ろうとした時に、タンクトップの陰から沙織さんの胸が見えてしまった。

 

だけどそれよりも気になったのは、沙織さんの付けていたブラジャーの肩紐の色だった。沙織さんの白い肌の上に乗っかった肩紐は、雲間から少しだけ見える青い空みたいな色をしていた。おれも煙草を一本だけ貰った。沙織さんもおれも煙草の火が消えるまで喋らなかった。

 

「これからイオンに行くから、その時駅まで送るね」
「ありがとうございます」

 

お父さんの運転で助手席にお母さんが座り、おれは左後ろに、沙織さんは右後ろに座った。お父さんが山手線の話をしてくれた。「二郎くん、山手線には二つだけ踏切があるんだよ。どこにあるか知ってる?」「知らないです。どこにあるんですか?」「目白と池袋の間と駒込と田端の間なんだよ。今度4人で行ってみるか?」「そうですね」その時突然沙織さんがおれの右手を握った。シートの上でそっと。前の二人に気がつかれないように。沙織さんはずっと前を見ていた。「お父さんその話もう飽きたよ。でも4人で行くってのは良い案だね」「そうだろ?」

 

駅前のロータリーに着いた。車を降りる時に「次はみんなで山手線巡りだ」とお父さんが言って「またいつでもいらっしゃい」とお母さんが言ってくれた。沙織さんは笑って手を振ってくれた。

 

 

あれから10年以上が経った。山手線の踏切は、今はもうひとつだけになってしまったようだ。