一日一善と三膳

一日一善と三膳を通して世界とおれを幸せにする

嗅覚が鈍感な女と敏感な女

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もう一年くらい前の話になる。嫁の妊娠が発覚し、母子健康手帳と妊婦健診補助券を貰いに役所に行った時の話だ。

 

とある土曜日に嫁が役所に行ったのだが、平日しか配布できないと言われて帰ってきた。嫁は怒り狂っていた。

 

1階フロアしか営業してなくて、母子手帳は2階でしか配布しなくて、2階は土日休みなんだって!有り得る?」

「それは有り得ないよね」

 

有り得るとか有り得ないとか、そんなことは二の次だ。とにかくおれはその怒りの矛先がこちらに向かないことを祈った。

 

「しかも2階は平日の95時しかやってないんだって!共働きの人には母子手帳も補助券も渡しませんってこと?無理だよね!?」

「確かにそれは無理だね」

「そう言えば有給余ってるって言ってたよね?」

「はい」

「今週取りに行ってよ」

「はい」

 

と言うことでおれは翌週に半休を取り役所に向かった。そして役所に到着して噂の2階フロアに上がった。母子健康手帳配布の案内板を見つけたので、近くにいた職員だと思われるおばさんに声をかけた。

「母子健康手帳と妊婦健診補助券が欲しいんですが」

おばさんは笑顔で答えてくれた。

「はい。ではまずこちらの申込書を記入してください。そしたらこちらの席に来てくださいね」

笑顔とは裏腹におばさんの口は臭かった。

 

いや、「口が臭かった」という言い方はアンフェアだ。例えば、人の容姿に対して「ブス」という言葉があるが、これもアンフェアな言い方の最たるものと普段から思っている。ブスとか口が臭いというのは、言っている本人の主観でしかないのだ。だから言い方を変えたいと思う。

 

笑顔とは裏腹におばさんの口臭はおれのタイプの口臭ではなかった。

 

おれは書類への記入が終わり、席の方を見るとおばさんが笑顔で座っている。マスク持って来ればよかった。という後悔の波が押し寄せつつも、おれは無表情で席に向かった。

 

「お願いします」

「はい!そしたらね、今から説明させて頂きますので、お時間5分ほどよろしいでしょうか?」

「はい」

「お仕事の間に抜けてきてくださったんですかね?」

「まあ。はい」

 

それから10分おばさんの説明を聞いた。実に丁寧に説明してくれて、よくわかった。3分くらい経過した時に、おれは鼻息を止めるという、奇跡の発見をしたのだった。5分が10分になろうが、おれは顔色一つ変えずにおばさんの説明を受け切った。

 

そしておれは聞いた。もちろん鼻息を止めたまま。

「これは、本当に平日の9時から17時の間にしか受け取れないのでしょうか?」

するとおばさんは自信満々の笑顔で答えてくれた。

「そんなことないですよ!朝は8時半からやってます!」

「そうなんですね。それは知らなかったです。30分も間違ってました」

 

10秒の沈黙の後、更に聞いてみた。

 

「ちなみに土日はやってないんでしょうか?」

「そうですね。土日はやってないんです。1階は第2、第4土曜日の午前中はやってるんですが、2階は平日しかやってないんです!」

「そうなんですね。わかりました。今日はありがとうござました」

 

確かに嫁の言っている通りだ。共働きには、母子手帳も補助券も渡す気がないらしい。でもここで、匿名のおれが、何かを批判するのは、とても卑怯な気がするので、この辺にしておきたい。書くなら実名でいつか書こうと思う。

 

 

それよりも、おれのタイプではない口臭がするおばさんに出会って、おれは由紀乃のことを思い出した。由紀乃はにおいにとても敏感な女の子だった。

 

その日はたまたま、いつもと違う煙草を吸っていた。そして由紀乃に会いに新宿に向かった。由紀乃はおれと会うと真っ先に「煙草変えた?」と聞いてきた。おれは由紀乃の前で煙草を吸ったわけではなかった。おれの洋服や髪の毛に染み付いた臭いを嗅ぎ別けて、そう発言してきたのだ。

 

おれ「うん。変えた訳じゃないんだけど、今日はたまたま」

由紀乃「そう」

 

そして歌舞伎町のいつもの安い宿泊施設に入り、二人で”休憩”をすることになった。でもおれはその前に、下北沢で、桃子と”休憩”していた。その日たまたま吸っていた煙草は桃子から禁煙するから貰って欲しいと言われて受け取ったものだった。

 

おれは由紀乃の嗅覚を試してみたくなった。だからあえてシャワーを浴びなかった。桃子との休憩が終わってシャワーを浴びたし、シャワーを浴びた後、桃子には触れてすらいなかった。

 

由紀乃がシャワーから出てきた時、おれはベッドで横になって、テレビを眺めていた。画面には競馬中継が映し出されていた。由紀乃が長い髪を後ろでまとめてポニーテールにしていたのを見て、本当に馬の尻尾みたいだなと思った。由紀乃はテレビを消して、部屋の明かりも全部消して、ベッドの中に入ってきた。

 

「なんで今日は違う煙草なの?」

「友だちが煙草やめるって言うから、貰ったんだよ」

「そうなんだ」

 

続く(と思う)

 

 

103日火曜日 晴れ。

 

狭い階段を降りてくるおばあさんと階段ですれ違わないようで、下で待ってあげた。一日一善。第79善。ごちそうさまでした。

 

今朝の体重。今日はシンプルに計り忘れた。

朝 ドトールAモーニング

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昼 中華弁当

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夜 ラーメン

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一日三膳。ごちそうさまでした。晩ご飯のラーメンは友人からのオススメのお店に一人で行ってみた。おいしかった。また一年後に来てみようかな。

(執筆時間42分)

 

 

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