まぜそばを食べる君
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まぜそばを注文した君は「今日はこの前のホテルとは違うホテルにしようよ」とスマホの画面をおれに向けた。
まぜそば。おれはまぜそばを生まれて20数年間一度も食べたことがなかった。その存在は知ってはいたものの、手をつけずにいた。君とおれの関係もそんな感じの関係だった。
上野駅から鶯谷駅に向かう道すがら「今日はコンビニじゃなくて、どこかで何かを食べようよ」と誘ってくれた君の手足は細くて長かった。
君に会いに行くために、おれは知らなかった街まで何度も行った。そしてその街を知った。だけどその街の風景も徐々におれの記憶の中からいなくなりつつある。
今度一人で行ってみようかと思うよ。
と言うようなことを今日昼食にまぜそばを食べながら思った。今は帰りの電車の中だ。家に着いたら娘をお風呂に入れて娘が眠ったら嫁と二人で紅茶を飲みながらゆっくり過ごそうと思う。彼女の細長い手足を思い出しながら。