一日一善と三膳

一日一善と三膳を通して世界とおれを幸せにする

靴を送る、と言うこと

Ads by Google

37日水曜日 曇り。寒い。ダウンジャケットを会社に置いてきたので、家にあったカーディガンを引っ張り出して着た。

 

赤いソールのヒールを一日で3足も見た。赤いソールのヒールをおれはこれまで二人の女の子にプレゼントしたことがある。

 

18歳の時、誰かが教えてくれた。靴を送るということは、さようなら、を意味しているんだと。

 

おれは朱美ちゃんと優奈ちゃんに靴をプレゼントした時、その話を思い出したのだけれど、結果は変わらないだろうと思い、プレゼントをした。朱美ちゃんも、優奈ちゃんも喜んでくれたし、それで良かったんだと思う。

 

朱美ちゃんは代々木公園で二人で歩いていた時に、履いていたヒールが折れてしまったので、原宿駅近くの靴屋まで二人で買いに行った。朱美ちゃんと手を繋いで歩いたことはその時までなかったのだけれど、その時初めて朱美ちゃんの手を取った。ちょうど今日みたいに曇っていて、まだ寒い日だった。朱美ちゃんとは同じ大学で、授業をさぼって二人で代々木公園に行っていた。平日だったけど、さすがは原宿、若者でごった返していた。当時はおれたちも若者だった。靴屋でおれは赤いソールのヒールを朱美ちゃんにプレゼントした。今思えば、自分がアルバイトをしたお金で誰かにプレゼントしたのは、あれが初めてのことだったのかもしれない。

 

朱美ちゃんの家の近くのカフェで日曜日の朝に食べるモーニングが好きだった。キューピーのような髪型をした店主が作るキッシュがおいしかった。店の内装は白と青で統一されていて、地中海みたいだなと、地中海のことを何もしれないのに思っていた。

 

数年前、嫁と離婚をしかけていた時に、ふと思い立って、おれはそのカフェを訪ねてみようと思い、日曜日の朝に早起きをして電車を乗り継ぎ1時間かけて行ってみたのだけれど、そのカフェはなくなっていた。そしてまた1時間かけて家に戻った。2時間の間、嫁はベッドの上で眠っていた。その2時間の出来事を今も嫁は知らない。

 

 

優奈ちゃんと上野公園を歩いていたら、優奈ちゃんの履いていたヒールが折れた。ミスターミニットに行こうとした優奈ちゃんを止めて、上野駅近くの靴屋に行き、おれは赤いソールのヒールをプレゼントした。

 

いつも手を繋いで歩いていた優奈ちゃんが、靴屋に行くまでの道のりは手を離して歩いた。「歩きにくいから手離すけど、先に行かないでね」と。おれは朱美ちゃんのことを思い出した。もしかしたら朱美ちゃんはあの時、歩きにくかったのかもしれないと。

 

折れたヒールは靴屋さんで引き取ってもらって、赤いソールのヒールを履いて、二人で鶯谷まで歩いて、ホテルに入った。その夜のことだった。優奈ちゃんは昼間と同じような台詞をおれに向かって投げかけた。「先にいかないでね」と。おれが先にいったことなんて、今まで一度もないだろ、と心の中で強がってみた。

 

 

結局朱美ちゃんも優奈ちゃんも赤いソールのヒールを履いて、おれの知らないどこかに行ってしまった。今の所、嫁に靴をプレゼントするのは控えている。

 

 

 

スターを頂けたなら歌います。ブックマークを頂けたなら踊ります。読者になって頂けたなら脱ぎます。おれの自己紹介