ラーメン二郎【札幌奇譚その2】
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昨日、札幌奇譚その1。を書いた。
そして今日、今年の漢字に「北」が選ばれたようだ。
これにあやかり、今日も札幌奇譚を書こうと思う。今日は、その2。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
兄と西8丁目駅で下車して、寒空の下を15分弱歩いてラーメン二郎札幌店へ行くことにした。
おれ「こんな寒い中歩いて辿り着いた先の二郎はおいしいね違いないね」
兄「そうだな」
大通公園を通り過ぎる時、右手に電波塔が見えたけれど、特に立ち止まることもなく前を行く兄は歩き続けた。
おれがラーメン二郎と出会ったのは、今からもう10年以上前のことだ。当時代々木上原の1Kのアパートに兄と二人で暮らしていた。
1Kのアパートでは、ベッドマットレスに兄が寝て、おれはいつもフローリングの上にドン・キホーテで購入したジョイントマットを敷き詰めただけの場所で眠っていた。兄が買ってくる大量の書籍のお陰で最終的に、おれは寝返りが打つことすらできなくなった。そしてある日おれはその狭さに突然発狂してしまった。自分でも驚いたが、天井を眺めていつものように眠りにつこうとしていると、知らぬ間に涙が目の中いっぱいに溜まってた。その夜おれは、コンビニに行き、何故か普段は行かない、青年向けの雑誌コーナーの前に立ち、その派手な表紙達をずっと眺めると言う奇行に及んでしまった。
それから程なくして、おれは兄と暮らしていたアパートを出て、上町で一人暮らしをしていた友希ちゃんのマンションに転がりんこんだのだけれど、その話は、また、別の奇譚集にてまとめたいと思う。
話を戻すと、おれがラーメン二郎と出会ったのは、兄と暮らすアパートを離れて間も無くの頃だった。いつものように講義が終わった後、友希ちゃんのマンションに行こうとしていた時に、兄からメールが入った。
兄「ラーメン食べに行かないか?」
おれ「いいよ」
兄「お前、昼ごはん食べた?」
おれ「いや、今日は食べてないけど」
兄「今から行くラーメン屋は量が尋常じゃないから、何も食べずに来いよ。19時に下北沢な」
おれ「わかった」
そしておれはその日、初めて二郎と対面した。今でも覚えているのは「もう二度と来るものか」とその日思ったことだ。でもその後も、月に一度くらいのペースで兄からメールが来て、3度ついていった。そして、4度目はおれの方から誘っていた。
北海道大学の植物園が左手に広がっていた。
兄「小泉幸太郎はどんなに忙しくても、月に一度、父親と弟と食事に行くらしいぞ」
おれ「そうなんだ」
そういえば、嫁が妊娠する前までは、なんだかんだ、月に一度くらいのペースで兄と食事に行っていた。でも嫁が妊娠し、娘が生まれてからは、随分と食事に行っていなかったことに思い当たった。
おれは特に何も言わずに、兄も黙ったまま、歩き続けた。そして、JRの高架の向こう側に黄色い看板が見えた。店の前に5人ほど並んでいるのが見えた。
兄「並んでる?」
おれ「うん。5人くらいかな」
それを聞いた兄は、突然走り出した。
おれはその兄の背中を見て、思わず笑ってしまった。
二郎に向かって走り出す、アラフォー。
いや、確かに、こんな寒空の下で、並ぶ時間が増えるのはおれも嫌だ。でも、走るかね。
まあ、おれも兄の背中を追いかけて走ったのだけれど。
思えば、おれは小さな頃からずっと兄の背中を追いかけて来たような気もする。そんなことを考えて、おれはまた笑ってしまった。
列に並んでから30分くらいで遂に札幌二郎を食べることができた。
おれ「来月から月に一度は食事に行こう。もちろんおごってね」
兄「いや、おれ来月忙しいから無理」
札幌二郎の麺は、今までに訪れたどの二郎よりも柔らかく感じられた。
(執筆時間41分)