14歳の少年の発想
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2月23日金曜日 曇り。少しだけ暖かい。
明日ついに嫁と娘が帰ってくる。がおれは小野真弓の写真集『赤い花』をコタツの上に置きっぱなしなのである。
30歳を過ぎてなお、何かを家の中で隠さなければならない状況になるとは思わなかった。どこに隠そうか?普通に本棚に並べておくことに決めた。こそこそとするから余計に目立つ、ということを30歳を過ぎたおれは知っている。14歳の頃にはなかった発想だ。
14歳の頃の、おれは葵ちゃんが好きだった。なぜ葵ちゃんを好きになったか?きっかけは葵ちゃんを迎えにきた、葵ちゃんのお母さんだ。葵ちゃんのお母さんはとてもきれいだった。おれは高橋に聞いた。
おれ「あそこの柱の前に立ってるのって誰のお母さん?」
高橋「葵ちゃんのお母さんだよ」
だがその時おれは葵ちゃんを知らなかった。そして結局その日おれは葵ちゃんを見ることなく帰宅した。帰宅したおれの頭の中は、未だ見ぬ葵ちゃんのことでいっぱいになった。「どんなにかわいい女の子なのだろうか?きっとあのきれいなお母さんに似ているに違いない」おれは信じて疑わなかった。
次の日、おれは高橋と葵ちゃんを探した。
高橋「あれだよ」
葵ちゃんは机に座って何かをノートに書いていた。葵ちゃんの後頭部が見えた。教室の前の方の出入り口に移動して葵ちゃんの顔を見た。葵ちゃんはかわいかった。とてもかわいかった。
それから14歳のおれは、どうにか葵ちゃんに触れられないものかと、1日考えた。そして思いついた。
葵ちゃんにぶたれれば良いんだ!
おれは翌日、葵ちゃんが廊下に出て来るのを見計らって声をかけた。
おれ「今日はとても眠いだ。こんなに眠い日は生まれてこのかた初めてだ。こんなんじゃダメだと思う。ビンタして目を覚ましてほしい」
さすがは14歳の中学生だ。今まで一度も会話をしたことのない女の子だろうと御構い無しだ。
葵ちゃん「え?何で?ビンタしなくても良いと思う。それに何で私?」
中学生の女の子はませていると言う噂は聞いていたが、その通りだと思った。
おれ「うん。まあそうだよね。でも一回ビンタしてくれればそれで良いんだ。そんなに深く考えることじゃないよ」
葵ちゃん「でも、初めて話したばかりなのに、いきなりビンタはできないよ」
おれ「うん。でももう話したんだから、今もう友だちだよ」
葵ちゃん「何だかよくわからないけど、ビンタすれば良い?」
おれ「うん。ちょっと待って、この右側をビンタして」
葵ちゃん「わかった」
おれは足を肩幅に広げ、全神経と血液を右の頬に集中させた。
おれ「良いよ。思いっきりやって」
葵ちゃん「思いっきりは怖いよ」
おれ「じゃあ、程よくお願い」
葵ちゃん「右手でやるから左側のほっぺたでも良い?」
おれ「ああ、そうか、うん。ちょっと待って」
おれは、全神経と血液を左の頬に集中させた。
おれ「お願いします」
葵ちゃん「うん」
おれは葵ちゃんの振り下ろす右手が左頬に当たるその瞬間まで目を離さなかった。葵ちゃんの右手がおれの左の頬に食い込む。おれは少しだけ、首を左に振り、葵ちゃんの右手をさらに迎えに行った。
ぱちん
廊下に静かな音が、響いた。
校舎の窓から入ってくる春の風がおれの左頬を優しく撫で、葵ちゃんの髪の匂いをおれの鼻に丁寧に運んでくれた。そして、おれは葵ちゃんが好きになった。
エレベーターで後から乗り込んで来たおじさんに行き先の階を聞いて、ボタンを押した。一日一善。第111善。ごちそうさまでした。
昨晩の体重77.7kg
朝 6個100円のクリームパン
昼 鮭おにぎり、旨辛チキン
夜 一平ちゃん、旨辛チキン、げんこつメンチ、ごはん、キャベツ
一日三膳。ごちそうさまでした。
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